コラム

飲食店開業で失敗しないために!流れや必要な資格などの準備マニュアル

飲食店を開業する際、まず何から始めたらよいのか、いつまでにどのような準備が必要なのか迷う人もいるのではないでしょうか。本記事では、飲食店を開業するときの流れに加えて、必要な資格や準備をしておくべきこと、飲食店経営に必要なスキルなどを解説します。これから飲食店を始めたいと思っている方は、ぜひ開業する際の参考にしてみてください。

飲食店を開業するときの流れ

飲食店の開業を目指すときは、いつから・どのような準備を始めるとよいのでしょうか。まずは準備の流れを時期ごとに確認し、開業までのイメージをしましょう。

●開業までのスケジュール例

時期開業準備
1年前コンセプト設計
9カ月前物件探し・デザイン作成・事業計画書作成
5カ月前融資などの開業資金調達
4カ月前メニュー開発
3カ月前物件契約・内装施工開始・設備導入・販促計画・助成金申請準備
2カ月前備品発注・助成金申請・開業手続き
1カ月前人材採用・プレオープン
開業

開業に必要な準備や手続きは複数あるため、少なくとも1年前から準備を始めることをおすすめします。目標とする開業日がある場合は、直前になって慌てることのないよう、余裕を持って計画的に準備を始めるとよいでしょう。

ここからは、それぞれの準備ごとにポイントを解説していきます。

①飲食店の開業準備【コンセプト設計】

飲食店を開業する準備として最も重要なのは、お店のコンセプトを策定することです。コンセプトとは、お店のベースとなる考え方や構想のことですが、これを決めることで、お店の魅力や理想の土台が明確になり、来店するお客様に向けてお店がどうようなサービスや商品を提供しているのか伝わりやすくなります。

コンセプトを決めるときは、「5W1H」を使うことがのポイントです。「5W1H」を利用してコンセプト設計をする際は、「なぜ」「誰に」「何を」「どこで」「いつ」「どのように」といった6つの要素を整理して明確にしていくとよいでしょう。以下を参考に、自分の理想の店舗像を考えてみましょう。

●「5W1H」を使ったコンセプト策定例

5W1Hカテゴリ理想の店舗像
なぜ創業目的地元食材のおいしさを伝えたい
誰にターゲット顧客観光客、近隣の居住者
何を商品地元農家の野菜や果物を使用、地元食材を多く使用する
どこで立地テーブル席主体、カウンター席数席、テラスも設置できれば尚良し、20坪前後
いつ営業時間ランチ~ディナータイム
どのようにサービス惣菜などを多めにしてテイクアウトも可能にする、子ども向けメニューの提供

また、コンセプトは「自分のやりたいこと」と「ターゲットとなるお客さまのニーズ」がマッチしていることが重要です。納得がいくコンセプトができたら、第三者に確認してもらうのもよいでしょう。友人などにお客さま視点でチェックしてもらいながら考えると、理想の店舗像がより明確になります。

②飲食店の開業準備【物件探し・事業計画書の策定】

お店のコンセプトが決まったら、次は物件探しと事業計画の策定を進めましょう。ここでは物件の探し方のコツや事業計画書を作成するポイントを解説していきます。

物件探し

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飲食店を開業するための物件を探すときは、以下のことがポイントになります。

物件は早めに探す

一般的に物件探しよりも先に資金調達を行わなければならないと思っている人も多いでしょう。しかし、資金調達よりも契約する物件を探して仮押さえをする方が先決です。自己資金以外で資金調達をしたうえで飲食店を開業する場合、資金調達の際には事業計画書が必要ですが、事業計画書に記載する出店エリアや家賃が決まっていないと、融資を行う際の判断材料が減ってしまい、融資を受けることが難しくなってしまいます。

このため、資金調達よりも物件探しを先に行い、自己資金が少ない場合には手付金を払わずに仮押さえできないかなど、オーナーに交渉をすることも検討しましょう。

優先したい条件を明確にする

では、どのような条件をもとにして物件を選んだらよいのでしょうか。

まず、最初に策定したコンセプトを思い出してみましょう。立地や店舗の広さ、賃料や駐車場の有無など、コンセプトを軸としてターゲットとなる客層に合わせた条件を洗い出していきます。その中から、自分が優先したいと思うものを明確にし、物件を選びましょう。

事業計画書を策定する

物件が決まったら、次に事業計画書を作成しましょう。

事業計画書とは、これから始める事業をどのように運営していくのか、具体的な行動を内外に示す計画書のことです。決定したコンセプトをもとに、持っているアイデアや具体的な資金計画、今後の流れなどをまとめていきます。

事業計画書を作成することで自分の思考を整理し可視化できるほか、従業員を雇う場合にはお店の方向性を共有することができます。また、前述の通り経営の見通しを数字化することで、融資を受ける際の判断材料にもなります。

③飲食店の開業準備【融資や助成金などの資金調達】

物件も決まり事業計画書が完成したら、次は開業にかかる費用を準備していきます。

開業にかかる費用の目安

飲食店開業のためにかかる費用は、お店の業態や規模、出店エリアによって変わってきますが、平均値はおよそ1,000万円とされています。

開業費用の内訳は、保証金(敷金)などの物件取得に関する費用や、内外装工事、備品の購入などの店舗投資に関する費用、開業後の運転資金などが挙げられます。保証金は通常の住居用の物件と違い、賃料の10カ月分程度が相場とされているので、例えば月20万円の物件を借りようとすると200万円の保証金を用意する必要があります。

開業資金調達の方法

開業に関わる資金をすべて自分で用意できるのであれば問題ありませんが、そこまで資金がない場合や自己資金ゼロといった場合には、どのように資金を調達したらよいのでしょうか。

融資制度を利用する

自己資金がない場合、融資制度の活用を検討してみましょう。例えば、日本政策金融公庫には「新創業融資制度」という、創業前または創業後間もない事業者が利用できる創業融資があります。この制度には創業資金の10分の1以上の自己資金があることが融資要件となっていますが、「現在行っている仕事と同じ業種の事業を始める場合」「産業競争力強化法に定める特定創業支援事業の認定を受ける場合」のどちらかを満たしていれば、自己資金の額は問わないという特例があります。
(参考:日本政策金融公庫「新創業融資制度の概要」

また、「地方自治体の制度融資」という、都道府県や市区町村などの地方自治体が、創業者など地域の事業者をサポートする融資制度もあります。民間金融機関と信用保証協会の三者が連携して公的な資金を貸し付ける制度です。各自治体によって内容は異なりますので、具体的な内容については各地方自治体のホームページ等で確認してみるとよいでしょう。
参考:東京都産業労働局「東京都中小企業制度融資」

助成金や補助金を活用する

国や自治体が提供している補助金や助成金制度の活用を検討してみるのもよいでしょう。起業する際に必要な資金の一部の補助を受けることができる補助金として、「創業支援等事業者補助金」という制度があります。支給対象者は「新たに創業する人」で、従業員の雇用が1人以上必要となりますが、支給額は100万円〜200万円、補助率は1/2以内となっています。
(参考:中小企業庁HP

もう一つ、中小企業庁が実施している「小規模事業者持続化補助金」という小規模事業者の事業継承や働き方改革、人材不足、販路拡大などを目的とした補助金制度もあります。支給対象者は「全国の小規模事業者」で、補助上限額は50万円・100万円(賃上げ・海外展開・買い物弱者対策)・500万円(複数の事業者が連携した共同事業)の3種類があります。補助率は経費の2/3、補助の条件は「商工会・商工会議所と一体となって経営計画を作成すること」となっています。
参考:独立行政法人中小企業基盤整備機構HP

自己資金が少ない場合には、こうした融資制度や助成金、補助金の条件を満たしているか確認しましょう。条件が合う制度があれば活用し、開業に必要な資金にあてることが可能となります。

尚、助成金や補助金は制度の変更や終了することもありますので、各行政団体のホームページなどで最新の情報を確認してください。

④飲食店の開業準備【取得が必要な資格】

飲食店を開業するためには、食品衛生責任者」と「防火管理者」の2つの資格を取得する必要があります。それぞれの資格について見ていきましょう。

食品衛生責任者

食品衛生責任者は、食品を扱う店舗で必ず1人以上の従業員が取得していなければならない資格です。店舗内の衛生管理や従業員の衛生管理指導を行う責任者が取得します。

取得の際は、各都道府県で実施している食品衛生に関する講習の受講が必要です。講習期間は通常1日で、資格取得にかかる費用は1万円程度が一般的です。費用は地域によって異なるため保健所に詳細を確認してみてください。
(参考:一般社団法人東京都食品衛生協会「食品衛生責任者養成講習会」

防火管理者

収容人員が30人以上の店舗の場合は防火管理者を配置する必要があります。延床面積が300平米以上の場合は「甲種防火管理者」、延床面積が300平米未満の場合は「乙種防火管理者」の選任が必要です。防火管理者になるには各地の消防署などが実施している講習会を受講します。

講習期間は通常甲種は2日、乙種は1日で、資格取得にかかる費用は7,000円~8,000円程度です。
(参考:一般社団法人日本防火・防災協会「防火・防災管理講習」)

調理師免許は不要

飲食店を開業するためには「調理師免許」を持っていなければならないと考える人も多いと思いますが、実際には調理師免許がなくても飲食店を開業することは可能です。調理についてより専門的な知識や技術を身につけたい場合や、開業までの時間的、経済的な余裕がある場合は取得するのもよいでしょう。

⑤飲食店の開業準備【各種申請と届出先】

飲食店開業にあたっては、さまざまな申請が必要です。必要な申請書類と提出場所は以下の通りです。

●必要書類とその提出場所一覧

提出場所必要書類
保健所食品営業許可申請
税務署個人事業の開廃業等届出書
社会保険事務所社会保険の加入手続き
労働基準監督署労災保険の加入手続き
公共職業安定所雇用保険の加入手続き
消防署防火管理者選任届防火対象設備使用開始届火を使用する設備等の設置届

ここからは、それぞれの必要書類と提出場所について詳しく解説します。

食品営業許可申請【保健所】

保健所に提出する書類には、「食品営業許可申請」があります。この申請は、飲食店を開業する10日前を目処に提出しなければなりません。申請の際は、申請書のほか食品衛生責任者の資格を証明できるもの(食品衛生責任者手帳など)が必要です。

食品営業許可は、種目別になっており、提供したいものに合わせて取得する必要があります。ランチなども提供するカフェを営業するなら「飲食店営業」、お菓子を売りたいなら「菓子製造業」など。また、施設も種目別に要件が異なりますので、図面を持って保健所に相談に行くと不足している設備を教えてくれるはずです。作ってしまってからでは遅いので、事前の相談をおすすめします。
(参考:東京都福祉保健局「営業許可を取得するための流れ(一般営業)」

個人事業の開廃業等届出書(開業届)【税務署・都道府県税務署】

個人経営の店舗として開業する場合、税務署へ「個人事業の開廃業等届出書」を提出します。この届出書は一般的に「開業届」と呼ばれています。

個人事業主になると、その年収の多少に関係なく確定申告をする必要がありますが、その確定申告をする上で必要となる届出です。さらに、確定申告の際に青色申告を選択するのであれば、「青色申告承諾申請書」も合わせて提出します。
(参考:国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」

社会保険の加入手続き【社会保険事務所】

個人事業主として従業員を雇う場合、社会保険の加入は任意ですが、法人として従業員を雇う場合は強制加入となります。こちらは、社会保険事務所で手続きを行う必要があります。
(参考:日本年金機構「事業主の方 社会保険事務担当の方」

労災保険の加入手続き【労働基準監督署】

飲食店に関わらず、事業を経営して従業員を雇用する場合に必要な届け出として、労災保険の加入手続きがあります。従業員の雇用形態に関わらず必要となる手続きのため、従業員を雇用した日の翌日から10日以内に、労働基準監督署へ届け出ましょう。
(参考:厚生労働省「労働保険について」

雇用保険の加入手続き【公共職業安定所】

雇用保険も労災保険と同様に、事業を経営して従業員を雇用する場合に必要な手続きです。雇用する従業員が、「1週間の労働時間が20時間以上」かつ「31日以上継続して雇用する」場合に必要となります。

こちらも労災保険と同様、雇用した日の翌日から10日以内に公共職業安定所に届け出ましょう。
(参考:厚生労働省「雇用保険制度」

防火管理者選任届など【消防署】

収容人数が30名を超える店舗の場合は「防火管理者選任届」が必要です。営業を開始する前までに消防署へ届け出ましょう。

また、「防火対象設備使用開始届」という手続きも必要となります。この手続きは、消防署が管轄するエリアに出店する飲食店などを事前に把握して、店舗として使用する場所が消防法で定められた消防用設備をきちんと設置しているかということを確認するための書類です。さらに、ガスコンロなど火気を使用する場合は「火を使用する設備等の設置届」も必要です。これらの書類は設置工事に着手する日の7日前までに提出しましょう。
(参考:東京消防庁「防火・防災管理者選任(解任)届出について」「防火対象物の使用開始の届出をしよう」「火を使用する設備等の設置(変更)届出書記入例」

飲食店を開業するのに必要な能力は?

開業に向けて準備を進めていても、いざ開業をしたら今までの準備を活かしきれずに経営を継続できなければ意味がありません。では、飲食店の経営に必要なスキルとはどのようなものでしょうか。

まず、もっとも重要なスキルは「経営能力」です。最初に考えたコンセプト設計をもとに開業予定の飲食店の業態や特長を定め、集客目標や収益目標、返済計画などをしっかりと立てて、事業を前に進めていく能力です。また経営を上手く回していくためには、会計や税務、法律、衛生管理に関する知識も必要です。

また、従業員を雇う場合には、人材の採用や教育、人間関係の構築やシフトの調整などの「マネジメント能力」も重要となります。その中で、従業員との信頼関係を築くことも大切なスキルとなるでしょう。

さらに、お客様に受け入れられるような「新規メニューの開発能力」も非常に重要と言えます。基本的な調理スキルに加えて、お店のコンセプトに合わせたメニューの開発や、季節に応じた新しいメニューやここでなければ食べられない料理を提案することは、お客様の心を掴む大切な要素となるでしょう。

飲食店開業を失敗しないためのコツ

競争が激しい飲食業界で成功するには、能力だけではなく知識や経験も重要です。ここでは、開業を失敗させないためにやっておきたいことを紹介します。

失敗事例についても知っておく

せっかく開業したお店を失敗させないためには、失敗事例を数多く知っておくことも大切です。成功している飲食店のモデルは目に付きやすいですが、あえて失敗事例にも目を向けて情報収集をしてみましょう。失敗から学ぶことも多くあるため、自分のビジネスに活かせるヒントが得られるかもしれません。

開業支援サービスや起業セミナーを活用する

物件探しや資金調達の方法など、飲食店の開業に必要なノウハウを教えてくれる開業支援サービスや企業セミナーなどを活用するのもよいでしょう。

また、知り合いで飲食店を経営している人がいれば、開業に関してより現実的な話を聞いてみるのもおすすめです。

シェアキッチンなどを利用してテスト営業をしてみる

シェアキッチンとは、主に複数の料理人や飲食店が共同で使うキッチンのことで、最近ではイートインスペースを併設したシェアキッチンも増えてきています。

飲食店を開業しようとすると物件の取得費用や内装、外装工事の費用、厨房設備のリース費用や購入費など多額のコストがかかりますが、こうした初期設備投資を抑えながらまずはシェアキッチンでテスト営業をしてみることもおすすめです。実際に運営の流れをシミュレーションすることで、計画に無理はないかなどの確認もでき、改善点などが見つかる場合もあるでしょう。

(参考:「シェアキッチンとは?特徴や利用方法、運営事例について」

事前準備をしっかりして飲食店を開業しよう

飲食店を開業するためには物件探しや資金調達、資格取得や手続きなど、さまざまな事前準備が必要です。最初に決めたお店のコンセプトを軸にして、まずはシェアキッチンなどでテスト営業をしながら経営スキルを磨くのもよいでしょう。計画的に準備を進め、自分の飲食店開業を目指しましょう。